示談交渉
⑴ 示談交渉とは?
自己の相手方と直接交渉して損害の賠償を求める方法です。
争いがほとんど存在しないような事案では,解決までにかかる時間も短く,手続費用も抑えれますので,最初の選択肢といえるでしょう。
ただ,示談交渉はあくまでも相手方と合意することで事件を解決するものですから,相手方との合意が期待できないような事案では,選択すべきではないと言えます。
また,当初は示談交渉で解決できる見込みがあったとしても,交渉途中で状況が変化し,交渉 が暗礁に乗りあげてしまうこともあります。この場合には,早めに別の手段を取ることが必要となってきます。
⑵ 示談交渉の流れ
示談の時期には特に決まりがあるわけではありません。しかし,示談は通常,最終的な解決になるものであるから,損害額が確定しないうちに行うのではなく,損害が確定してから行います。ただ,治療が長くかかる傷害を負ってしまい,通院,入院が継続している場合などには,加害者側の保険会社から治療費の内払い(仮払い)がなされることがあります。この,内払いの額や仕方について不満がある場合には,損害が確定する前でも,示談交渉を開始することがあります。
⑶ 時効について
示談交渉をする際の,気をつけなければいけないことの一つに「時効」があります。
交通事故で問題となる時効には,以下の2つがあります。
ア 民法上の損害賠償請求権
民法上の損害賠償請求権(民法709条)について,民法724条は「損害および加害者を知った時から3年で時効にかかって消滅する,と定めています。
交通事故では,損害が発生したこととその加害者は,事故が発生した時にわかりますので,ひき逃げなど特殊な事案でない限り,事故から3年で,損害賠償請求ができなくなると考えておいた方が無難です。
なお,後遺障害の損害部分については,後遺症が出た日(=症状固定日)から3年と計算します。同じ事故に基づく損害ですが,請求できる期間が異なりますので,注意が必要です。
イ 自賠責保険への被害者請求
自賠責保険への被害者請求権(自賠責法16条)も,同じく3年で時効にかかって消滅します。この時効の起算点も「損害を知ったとき」とするのが一般的です。したがって,原則として事故日,後遺障害は症状固定時から3年,で被害者請求ができなくなります。
このように.事故から一定の期間が経つと,請求権は消滅してしまいます。そこで,交渉が長引くような場合には,アについては加害者側から債務承認等の時効中断措置をとり,イについては自賠責保険所定の時効中断申請書を提出するようにしましょう。
⑷ 示談交渉の相手方
ア 保険会社の示談代行がなされている場合
交通事故を起こした場合,法律上損害を賠償しなければならない責任を負っている人は①運転者②運行供用者③使用者などが考えられます。
しかし,示談代行つきの任意保険が付いており.その保険金額が無制限であったり,十分だったりする場合には、とりあえずは任意保険会社の担当者と交渉するのが普通です。
よく保険会社の示談代行については,「示談交渉に保険会社ばかりが出てきて加害者が出てこず,誠意が感じられない。」「保険会社がこちらの言い分をよく聞いてくれない」といった不満が聞こえることがあります。
ただ,加害者本人ではどのような交渉をしたら良いか分からず,交渉が暗礁に乗りあげてしまうこともあるかもしれません。加害者は,保険が下りるかどうかを保険会社と相談しながら進めて行かなければならず,余計な時間がかかることもあります。ですので,保険会社の示談代行もうまく使って行く事で,円滑な交渉にすることができます。もっとも,保険会社の基準を押し付けるだけの示談代行が良くないのは言うまでもありません。
イ 示談代行がなされていない場合
示談代行がなされていない場合には,損害賠償責任を負う人と直接交渉することになります。既に述べたように,法律上,損害賠償責任を負っている人は複数います。そこで,示談交渉を誰とするのか,が問題となります。責任を負っている人たちが互いに連携をとっている場合には,代表的な人ととりあえず示談交渉をし,示談そのものは責任を負っている人たち全員とすることが考えられます。
反対に,責任を負っている人たちの連携が取れていない場合には,責任を負っている人たち全員と交渉するか,資力の十分な人との交渉を事実上先行させることを検討する必要があります。
⑸ 示談書の作成
示談交渉の結果,満足の行く支払額が提示された場合,示談書(または免責証書)を作成しておきます。
ア 支払に不安がない場合(任意保険がついている場合)
加害者に任意保険が付いている場合で,示談代行の結果示談がされた場合には,賠償金は保険会社から直接支払われます。ですので,支払いが滞ることについて心配になることはありません。通常,示談書の取り交わしだけで手続を進めて良いでしょう。
示談書の形式は,当事者双方が記載する「示談書」形式を取る場合と,被害者のみが記載する「免責証書」形式を取る場合とがあります。
特に効果は変わりませんので、どちらを選んでも問題ありません。ただ,示談書だと加害者の署名捺印が必要になりますので,免責証書の方が,示談成立までの時間短縮につながります。
次に,どちらが示談書や免責証書を作成するかが問題となります。一般的には,保険会社に示談書,免責証書を作成させて,被害者側で記載内容を確認し,署名,捺印をすることが多いでしょう。内容が合意した内容をしっかり反映しているか,入金先や入金時期が特定されているかなど,書面のチェックは専門家に任せたほうが安心です。
また,交通事故では,示談をした時には予想もしていない後遺症が現れる場合があります。このような場合に,一度示談をしていたとしても,追加で損害賠償の請求ができるように,別途協議条項を入れておくことも忘れずにしましょう。
イ 支払に不安が残る場合
加害者の経済状態が芳しくなく,賠償金の支払いに不安が残る場合には,示談書を取り交わす際にも,示談書を執行認諾約款付きの公正証書にして残しておいたり,起訴前の和解を利用したりするなどして,示談書を「債務名義」にし,支払いが滞った場合に,強制執行ができるようにししておきましょう。
また,可能であれば加害者の親族等に連帯保証人になってもらうことも考えられます。