事故態様の立証方法

過失相殺・過失割合とは

事故の発生について被害者側にも落ち度があった場合には,加害者の賠償額を決める際に,被害者側の過失も考慮して過失割合に応じて,賠償額を減額することになります。

これを過失相殺といい,損害の公平な分担の理念に基づくものです。

そこで,この過失相殺をするにあたって,事故当事者双方の過失割合をどのように定めるかが,問題となります。

過失割合は,事故の態様に応じて,「民事交通訴訟における過失相殺率の認定基準〔全訂5版〕別冊判例タイムズ38号」が過失割合を示した詳細な基準表を設けています。これは過去の裁判例を集めて作成されたものですので,事故態様が同じであれば,裁判においても基準表に従った過失割合が認定される可能性が高いといっていいでしょう。

事故態様の裏付け資料の入手方法

事故発生の際の事故態様について,当事者間で争いがなければ,その事故態様を過失割合の基準表にあてはめて判断することになります。

しかし,実際は,発生時の事故状況について,加害者と被害者との言い分が食い違うことがよくあります。そうした争いが起こるのは,多くの場合,運転者の一方または双方が,見間違いや記憶違いをしているからだと考えられます。この場合,裏付け資料をもって自分の言い分のとおりの事故状況であることを主張立証していく必要があります。

この事故態様の裏付け資料として,最も有力な証拠は,車に搭載されたドライブレコーダーの映像ですが,ドライブレコーダー普及率はまだまだ低いため,事故が映像に記録されているというケースはあまり多くありません。

そこで,次に有力な証拠となってくるのが,実況見分調書(人身事故の場合),物件事故報告書(物損事故の場合)です。

実況見分調書とは,警察が実施した実況見分の結果を記載した書面のことをいい,見分の日時,場所,現場道路の状況,立会人の指示説明などが記載されています。

実況見分調書は,事故の取扱署(交通事故証明書に記載されています)を通じて,加害者の送致日,送致先検察庁,送致番号を確認し,検察庁の記録係に,送致日と送致番号を伝えて,刑事記録の謄写を依頼することで入手できます(ただし,捜査中の刑事記録については原則として開示されません。また,刑事裁判まで行われた刑事記録の謄写は,裁判所に対して申請することになります)。

物件事故報告書とは,物損事故の状況について,極めて簡略な略図が記載されているものをいいます。

物件事故報告書が簡略なのは,物損事故の場合は,民事不介入の原則のもと,刑事事件としての捜査が行われないためです。

ただ,物件事故報告書であっても,警察という公的な第三者機関が作成したものなので,事故状況を確かめるうえで,有力な証拠となるのは言うまでもありません。

なお,物件事故報告書は,民事訴訟提起前には,原則として弁護士による弁護士会照会の手続きを採らなければ開示されません。

その他,加害者に対して,刑事裁判が実施されれば,裁判の確定後には,実況見分調書以外の刑事記録を謄写することも可能です。

正確な裏付け資料を確保するための注意点

事故状況の裏付け資料が入手できない場合や,資料を入手できた場合でも,加害者のみの立会いのもとで加害者の一方的な説明に基づいて実況見分調書ができあがっている場合があります。

このようなことにならないように,事故直後の現場や車の写真を携帯電話のカメラなどで撮影しておけば,それが有力な証拠となります。特に事故直後の車の位置などは,警察が現場に来る前に動かしてしまうことが多いので,事故直後に撮影しておきましょう。

また,事故によって怪我を負った場合には,警察に必ず人身事故として処理してもらうように伝えておく必要があります。怪我の治療のため入院中であれば,退院後に現場での検証の立会いを希望することを警察に必ず伝えておきましょう。

客観的裏付け資料がない場合の事故状況の立証方法

客観的裏付け資料がない場合には,車の損傷状況等から実際の事故態様を推認することになります。事故車両双方の損傷箇所について撮られた写真があれば,傷のでき方によって,双方の車がどのようにしてぶつかったのかがわかることもあります。

その他に,裁判所での尋問手続を通じて,運転者本人の供述や目撃者の証言から事故状況を立証することになります。

ただ,車両の損傷状況から事故の態様を推認するには,一定の限界がありますし,証言にしても,どちらの言い分が正しいか判断することは容易ではなく,事故状況を正確に立証することは非常に困難と言わざるを得ません。

したがって,裁判などで事故態様を争う場合には,最低限,実況見分調書・物件事故報告書を入手したうえで,今後の見通しを含めて,慎重に検討して裁判に臨む必要があります。

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