請求できる賠償金の種類について
交通事故では様々な損害が発生します。そして,発生した損害は,交通事故が原因と言える限り,加害者に対してその賠償を請求することができます。
交通事故は事案の蓄積があります。ですので,交通事故によってどのような損害が発生するかは,ある程度類型化することができます。
次では,どのような損害が発生するかを実際に見ていくことにします。
積極損害
積極損害とは,交通事故によって実際に支払うことになった損害のことです。むちろん実際に支払った金額全てが損害になるわけではなく,交通事故があった場合,通常支払うことになるだろう金額(これを「相当因果関係」と言います。)が損害になります。
治療費
交通事故で傷害を負った場合に,その治療に要した金額です。ただし,治療費が認められるのは,発生した傷害の治療に必要かつ相当な範囲で、必要もないのに長期間治療したり,不必要な診療をした場合には、治療費として認められない場合もあります。
付添看護費
被害者の年齢や症状の状態によっては,入院,通院に付添人がつかく必要があるといけない場合があります。このような場合で,医師が必要と認めた場合には,付添看護に必要な金額が,損害として認められます。
入院雑費
入院をした場合,日用品の購入など様々な費用が必要になります。
このような費用は損害として認められますが,その種類は非常に多くの種類がありますので,実務上は定型化されており,入院一日あたり1,500円程度が認められます。
通院交通費
通院をする場合にかかる交通費も,損害として認められています。
通院にバスや電車などの交通機関を使用する場合には,その実費分,自家用車による通院の場合には,ガソリン代相当額が損害になります。
また,傷害の程度によって,バスなどの使用ができない場合には,タクシー料金が損害として認められる場合があります。
葬祭費
被害者が不幸にもなくなってしまった場合,葬儀にかかった金額は損害として認められています。
もっとも,どんな葬儀でも全額が損害として認められているわけではなく,葬祭費として認められる損害は,ある程度定型化されています。裁判基準では,葬祭費として150万円を目安にしており,これより葬祭費が低い場合はその金額,高い場合は150万円を葬祭費として認める扱いをしています。
弁護士費用
保険会社や加害者との話合いが折り合わず,弁護士に交渉を依頼した場合には,弁護士費用も損害として認められています。
ただ,弁護士費用は全額が損害として認められるわけではなく,請求した損害額の1割程度が損害として認められています。
遅延損害金
不法行為に基づく損害には,5%の遅延損害金が付きますので,この損害金を請求することができます。ただ,実際の交渉では,遅延損害金は調整的に使われています。
消極的損害
消極損害とは,交通事故によって,本来もらえるはずだった利益がもらえなくなった,その利益のことをいいます。例えば,交通事故のために,一日会社を休んでしまった。一日働けばもらえるはずだった給料が,ここでいう消極損害にあたります。
休業損害
交通事故の被害者が,事故で負った怪我の治療のために,休業したり,十分な就業ができなかったりした場合に,怪我が治るまで(または症状固定まで)の間に生じた収入減の損害を指します。
事故前の収入を基礎に,休業した期間に応じて収入が減った額を計算します。勤めている人だけではなく,事業者や主婦などの家事従事者にも認められるのが特徴です。
後遺障害逸失利益
後遺障害とは,怪我が治った時に,体に残っている障害を指します。怪我が治ったのに,障害が残っている,というのは少し矛盾する物言いですが,交通事故紛争では,「治療を続けてもこれ以上症状が改善する見込みがなくなった状態」を「症状固定」と言い,この症状固定の時点で怪我が治ったものとします。症状固定の時に,体に残っている障害が,「後遺障害」です。
後遺障害は,部位や障害の程度に応じて,自賠法施行令に等級が定められています。この等級については,別の頁で詳しく説明していますので,そちらを確認してみてください。
症状固定時に後遺障害があると,等級に応じて労働能力が喪失したものと考えられます。そして,働ける期間(原則18歳から67歳まで)に,喪失した労働能力の分だけの損害が発生したと考えるのです。
例えば,30歳で年収500万円の人が,交通事故で症状固定時に8級の後遺障害があったとします。そうすると,後遺障害逸失利益の計算は,以下のようになります
基礎収入額(500万円)×労働能力喪失率(8級だと45%)×喪失期間(67-30=37年間)に対応するライプニッツ係数
死亡逸失利益
死亡逸失利益は,基本的には後遺障害逸失利益と似ており,いわば労働能力が100%喪失した状態ということができます。
後遺障害逸失利益と違うのは,被害者が亡くなっているために,生活費の支出を免れた分,生活費控除を行う点です。この生活費控除も,被害者の家族関係,年齢,性別に応じて一定の基準があり,概ね,その基準にそった計算が行われます。
慰謝料
傷害慰謝料(入通院慰謝料)
傷害慰謝料とは,病院に入院したり通院したりすることに対して支払われる慰謝料です。治療のために要した入院,通院の期間に基づき,算定することになります。
原則として入院,通院の期間は,実際に入院,通院した期間が基礎になりますが,それでは不都合になる場合(本来は通院が必要なのに,家庭の事情で通院できなかった場合等)には,実際の通院日数を3倍程度にした期間を,通院期間として算定することもあります。
死亡慰謝料
死亡慰謝料はその名の通り,被害者が亡くなったことに対して支払われる慰謝料です。
死亡慰謝料は,亡くなった被害者が一家の支柱であったかどうか,つまり,主に被害者の収入で家族が生計を立てていたかどうかで異なる傾向があります。
ところで,法律上は被害者が死亡した場合,その近親者(妻,夫や子どもなど)は,被害者本人に慰謝料とは別に,慰謝料が請求できることになっています(民法711条)。
しかし,各基準では,死亡慰謝料の額として定められた金額に,近親者の慰謝料も含まれているものと考えられています。ですので,特別の事情がない限り近親者が別途慰謝料を請求することはできません。
後遺障害慰謝料
後遺障害慰謝料は,後遺障害が生じたことで支払われる慰謝料です。症状固定時に後遺障害が残っていることに対し,慰謝料が支払われることになります。
後遺障害慰謝料も,後遺障害の等級に応じて,一定の金額が定められており,一定の等級に該当すれば,慰謝料の額も決まってきます。ただ,後遺障害の場合,事案ごとに性質が異なりますので,個別の事情が考慮されることも多いです。